第2章 税務上の手続き 第4節 両親からの資金援助

開業に当たり両親から資金援助を受ける場合には、一定の手続きをしないと多額の贈与が課される場合ある。

贈与税の税率

基礎控除後の課税額※

税率

控除額

200万円以下(310万円以下)

10%

ゼロ

300万円以下(410万円以下)

15%

10万円

400万円以下(510万円以下)

20%

25万円

600万円以下(710万円以下)

30%

65万円

1,000万円以下(1,100万円)

40%

125万円

1,000万円超(1,100万円)

50%

225万円

※1年間に贈与によりもらった財産には年間110万円の基礎控除が受けられる。いわゆる、年間110万円までは贈与税がかからない。

例えば、開業資金として、両親から2,200万円の金銭援助を受けた場合には、下記の金額の贈与税が課税される。

 受領金銭―基礎控除額×税率―控除額=
  (2,200万円―110万円)×50%―225万円=820万円(受取額の37.27%の税金が課される)

このように多額の贈与税がかからないようにするにはどうしたら良いか?下記のケーススタディーを参考にしてください。

1、テナントの場合

ケース1、両親から贈与税の暦年非課税と借入をした場合

平成23年2月に開業するに当たり、2,200万円を両親から資金援助を受けた場合

 平成21年12月に両親から110万円を貰う

 平成22年12月に両親から110万円を貰う

 平成23年1月に両親から110万円を貰う

 平成23年2月に両親から1,870万円を借りる※

 平成21年から平成23年までの各年において、年間110万円の基礎控除を受けている

 →課税されない

 残金1,870万円は借入であるので贈与に該当しない。

※借入金である証明として、「金銭消費貸借契約書」(借入の契約書)を作成して、貸主・借主の双方で契約を交わす。

「金銭消費貸借契約書」の雛型金銭消費貸借契約書
収入印紙

注1

 貸主 両親の氏名 (以下、貸主という)と借主 開業者本人の氏名 (以下、借主という)との間に、次のとおり金銭消費貸借契約書を締結する。

第一条【貸借】

 貸主は、平成  年  月  日に金        円也を借主に貸し渡し、借主は確かにこれを借り受け、受領しました。

第二条【元金の返済期】注2

 借主は、元金       円を平成  年  月末日までに返済するものとする。

第三条【返済方法及び利息】注3

第四条 返済方法は元金均等割方式とし、利率(年利)は  %とします。
(無利息なら「無利息」と記入する)

第五条【返済の方法】注4

 借主は、平成  年  月以降、  ヶ月間、毎月末までに金      以上を、貸主の住所に持参又は送付して支払うものとする。

 この金銭消費貸借契約書を証するため、本契約証書を二通作成し、貸主・借主の双方で署名・押印のうえ、各自一通を所持します。

平成  年  月  日
  貸主  住所
      氏名                        ㊞

  借主  住所
      氏名                        ㊞

注1 収入印紙

金銭消費貸借契約書には契約金額に応じた収入印紙の添付が義務付けられている、更に、添付した収入印紙は割印等により、再利用出来ないようにする。

収入印紙の適用額
契約金額

収入印紙の額

契約金額

収入印紙の額

10万円以下

200円

1,000万円以下

10,000円

50万円以下

400円

5,000万円以下

20,000円

100万円以下

1,000円

1億円以下

60,000円

500万円以下

2,000円

5億円以下

100,000円

上記の額は一契約書の金額であり、契約書は貸主・借主の双方で二通あることから、上記の額の2倍となる。

例えば、1,870万円の場合には20,000円の収入印紙が2枚となります。

注2 借入金の返済期限

両親が高齢な場合、例えば、父から借入をした場合に父の年齢が65歳で20年以上の借入金をする場合には、問題点がある。

→男性の平均寿命が78歳で父が65歳時に20年以上の返済で借り入れをした場合は返済満了時には父が85歳以上で男性の大半が亡くなっていることから返済が完了しない場合があることから、契約書を作成して返済していても一部の金額が税務署から贈与としてみなされることがあるので注意してください。

このケースの場合における返済期間は15年以下が妥当と思われる。

注3 両親から借入をした場合の利息

①両親が通常の金融機関と同様に利息の返済を求める場合

→金融機関の金利を参考に毎月元金と利息を返済する。

 返済方法としてⅰ元金均等方式とⅱ元利均等方法がある

 →ⅰは毎月の返済を利息と元金を合わせた額を同額金額内にして返済する。

  ⅱは毎月の返済額について元金を同一額にして、利息が元金の減少とともに減少して支払う。

②両親が借入金の元金返済を求めるが利息の支払いを求めない場合

→一定金額の範囲内では利息の支払が無くても贈与にならない

例えば、贈与税は年間110万円まで非課税である。このことは、借入金額について金融機関の通常金利で年間の利息額が110万円相当額の範囲内であれば、両親に金利を支払わなくても贈与にならない。

 EX)両親からの借入金額×金利

  1,870万円×3.1%=579,700円←年間110万円以下なので利息は計上しなくてもよい。

注4 返済方法

両親からの借入金の返済は記録を取って保存してください。後で税務署から問い合わせがあった時に証明になります。一番好ましい方法は両親の口座に振り込み・振替等の金融機関での記録が良いでしょう。

ケース2、相続時精算課税制度の適用を受ける場合

動物病院の開業資金を両親からもらう場合で一定条件を満たしている場合には贈与税が課税されない制度

(1)適用要件

 ・財産を贈与した人→贈与した年の1月1日の年齢が65歳以上の親

 ・財産の贈与を受けた人→贈与を受けた年の1月1日の年齢が20歳以上の子である推定相続人

 ・財産の贈与を受けた人が贈与年の翌年3月15日までに確定申告をする。


(2)適用金額

贈与財産2,500万円(累計額)まで特別控除として贈与税が課されない。しかし、2,500万円を超える部分の金額は一律20%の税率で課税される。


(3)注意点

 ・親の財産が多くない場合

…贈与をした人(親)が他に財産を多く所有していない(相続税がかからない)場合には、贈与税・相続税ともに課税されない。しかし、注意点として、相続税の計算上に贈与した資産額が親の相続財産に加算されて計算される。

 ・親の財産が多い場合

…贈与をした人(親)が他に財産を多く所有している(相続税がかかる)場合には、贈与時には課税されないが、相続時に子に贈与した財産を加算した価格で相続税が課税されることから最終的には節税にはならない。しかし、開業時に金融機関から融資を受けずに利息の支払いがないことが得であろう。

2、土地建物を購入した場合

ケース1、病院の建物の使用が病院のみで居住しない場合
(1)両親から資金援助の場合

 →テナントの場合と同様


(2)両親が病院の土地建物の全部又は一部を購入する場合

→両親が購入した土地建物は両親の所有物であり、贈与にはならない。しかし、両親が亡くなった場合には、相続財産となり、相続税が課税される可能性がある。又、自分が病院をしている土地建物であっても他の相続人と財産分与を協議する対象財産となるという面倒なことがある。

ケース2、病院の建物の使用が住居兼病院の場合
(1)両親から資金援助の場合

 ①資金を贈与してもらう場合

  ・暦年贈与の非課税110万円を活用する

  ・相続時精算課税制度の活用

住宅部分が建物面積の2分の1以上の住居兼病院を建築した場合の相続時精算課税制度の特別控除額は通常の2,500に1,000万円加算されて3,500万円となる。(テナントの場合のケース2を参照

  ・住宅取得等のための金銭贈与に係る贈与税の時限的軽減措置

麻生内閣が打ち出した政府の「経済危機対策」で住宅(住居兼病院で住居部分が2分の1以上)贈与税の非課税枠500万円分の追加措置がある。

 パターン1、暦年控除110万円+非課税枠500万円=610万円…申告不要

 パターン2、相続時精算課税制度の特別控除3,500+非課税枠500万円=4,000万円

 …翌年3月15日までに確定申告が必要

 ②両親から資金を借りる場合

  →テナントの場合と同様


(2)両親が病院の土地建物の全部又は一部を購入する場合

  →上記ケース1(2)と同様