第1章 開業準備 第1節 開業地の選定

開業地を何処にするかは最大の難問とも言える。そこで、多くの選択パターンを紹介しながら検証してみる。


ポイント1、自分の開業以降に他者があまり開業しない場所

この場所は、過疎化している場所を指すものではなく、物件がなかなか出ない場所を指しますが、この場合には予定地から遠くで代診している場合にはなかなか物件情報がタイムリーに入らずに難しい、Uターン開業のように地元で両親がコマメに探してもらえる場合には向いている。

ポイント2、場所の将来性について

→都市(再)開発・計画道路予定地 都心部・郊外を問わず各市区町村には公共事業として、第一に市街化区域には都市計画があり、これは市街地の再開発・新たな市街地の開発等の計画がわかり、新たな宅地開発や高層マンション建設を予測でき、将来における患者数の増加が期待できます。第二に計画道路により、将来における街の交通量(人・車)を予測できます。これらを調べるには各市区町村で販売している「都市計画図」(インターネットでも検索できます)があります。都市計画図には将来の都市計画と新規の計画道路がマップになっており、1枚で市街地が把握できることから都市計画図を開業マップとして、他の開業医院を印して物件探しに使いやすいので購入をお勧めします。

ポイント3、開業可能な用途地域

動物病院は市街地の何処にでも開業できるわけではなく、都市計画で定められている「用途地域」でなければならない。開業可能な用途地域(建築・テナント両者に共通しています)については下記の表を参照してください。

住居地域 用途地域 開業可能の有無
第一種低層住居専用地域 原則開業不可※1
第二種低層住居専用地域 同上
第一種中高層住居専用地域 同上
第二種中高層住居専用地域 開業可能
第一種住居地域 同上
第二種住居地域 同上
準住居地域 同上
商業地域 近隣商業地域 同上
商業地域 同上
工業地域 準工業地域 同上
工業地域 同上
工業専用地域 開業不可
  市街化調整地域 原則開業不可※2

※1店舗(病院)の床面積50㎡以下(15坪)の場合には可能なケースがある。
※2市街化調整地域であっても既存宅地と扱われている場合には可能なケースがある。
※3用途地域が開業可能な地域であっても市区町村で風致・建築協定地区計画等の街づくりで開業できないケースもあるので物件を契約する前に市区町村の都市計画課での確認が必要です。

ポイント4、コンサルタントの診療圏調査は必要か?

候補地の診療圏(地域により異なるが、おおよそ半径1.5km位)における既存の病院をチェックする。
コンサルタントが多額の診療圏調査費で診療圏調査をして出来上がった資料を見れば確かにプロが作成するものでもっともと思われる数字と見栄えが良いものができるが、極論から言えばそれ以上でもそれ以下でもない。

確かにプロが作成した診療圏調査を無駄とは言わないが、開業時に知りたい内容で大切なこととしては、第一に、金融機関からの融資に有効な資料であるのか?
新規開業で資金融資を受ける場合に重視される点としては、
①投資額が適正かつ投資額に対して自己資金が十分であるか(投資総額の2割以上が好ましい)
②開業後に融資した資金の返済が円滑にできる事業計画であるか。

著者が以前に金融機関に勤務していた経験からすれば、診療圏調査は作成者が作り方次第で実情よりも良く作れてしまう品物である。コンサルタントが診療圏調査をよく進める理由としては、良くいえばプロがデーター分析したもので開業後に繁盛する裏付け(安心)と融資審査資料としての有効な資料作成としているようだが、悪く言えば、コンサルタント料の裏付け資料であり、コンサルタントが日本国中の地域ごとに十分な資料が出せるのか?
 そこで、各地域における診療圏情報を最も知っているのは誰か?

→地域情報を詳しく知っているのは、著者でもコンサルタントでもなく、その地域で動物病院関係の仕事をしている者である。
例えば

(1)動薬の卸業者である。

この場合には通信販売ではなく、1週間に何回か直接病院に配達してくる業者である。
動薬の卸業者は1週間に何回も病院を訪問していることから院長の人柄・年齢又病院の雰囲気(患者さんへの対応・外科の量・スタッフのレベル等)、代診の人数及び従業員の総数等とコンサルタントが知り得ない情報を持っている。しかし、医科の場合には大手の薬品卸業者は会社で新規開業をサポートする部門があるが、動薬の卸業者は医科の卸業者程事業規模が大きくない、医科と違って動物病院は単科であり、表だってサポートを行うと地域の動物病院からクレームがつく恐れがある等の理由からサポートを行っていない。しかし、これから顧客として動薬の卸業者と取引していく予定であるのだから、こちらから動薬の卸業者の地域担当者に地域情報を相談する事をお勧めします。


(2)大学のOB・OGに聞く

候補地の比較的近くで開業している、又は代診をしている方から予定地の情報を聞く、動薬の卸業者と違って獣医師の視点で情報が得られる。

■チェックポイント

1、既存病院の規模
候補地の診療圏内に病院が幾つあるか、その空白地を候補地とする例が多いが、1件の病院でも病院の施設規模(大きさ・医療器具の充実度)は他の病院の2倍3倍或いはそれ以上の場合がある。患者数が多い病院は多く来る理由があるので、規模の大きい病院から転院して来るには簡単とは言えない事があるので繁盛している理由を十分に調査すべきである。



2、一人獣医師病院における院長の年齢と後継者の有無

一人獣医師病院については、院長の年齢が50代後半以降の先生で、かつ後継者がいない場合の病院は、サラリーマンであれば定年直前であり、これから高額の設備投資も控えるだろう、又、一般的には現状維持志向になる傾向にあり、転院が期待できる。



3、最近開業している病院があるかを調べる

最近開業(3年以内)している病院は、患者数を増加させるターゲットが重複していることから候補地の近くにならないように注意する。(タイプが違う場合には、単に1件の病院として評価する)



4、地域の価格帯を調べる

開業後に診療単価を変えることはあまり好ましくないと言える。開業当初に来院されてくる患者さんは比較的に予防を中心とした簡単な治療が多く、少し様子見的な場合が多いので、特定の診療項目について価格調査をする。

・予防について
 犬・猫の混合ワクチン
 フィラリアの薬品名と体重10kg当たりの料金
・診療
  初診料・再診料
  歯石除去
・手術
  避妊・去勢
※但し、上記の項目について激安料金と行っている病院に合わせる必要はない。



5、本人若しくは配偶者に所縁がある場所

→ポイント4で述べたように、地域情報を詳しく知っている場所で開業することは有効な選択地である。本人若しくは配偶者に所縁がある場所ならば動薬の卸業者以上の情報があるとも言える。
 出身地ならば親兄弟が情報の収集及び患者さんの啓蒙、更に開業時には一定の無償労働者としての貢献も期待できる、更には両親の老後介護も考慮すれば、まず、第一の候補地として考えるに値するだろう。



6、自分が気に入っている場所

→「好きこそものの上手なり」
 既婚者の場合には、開業地は家族とともに生活する場所でもあり、街の便利性・子供の教育問題等と人生設計をトータルして判断されることになり、家族が気に入る場所で開業する事が仕事にもいい影響が出るはずである。



7、過去の代診先と所得層が近い場所

→「慣れた雰囲気で診療する」
複数の代診先で経験がある方は各地域で臨機応変に対応する能力がある。
しかし、1ヶ所ないし2ヶ所で長く代診していた方は代診先と近い所得層で開業した方がリズムを摑みやすいと考えられる。
 地域の所得層を調べるにはどのようにすれはようか?
 下記の項目から住民1当たりの所得金額を調べる。
→県民所得…総務省統計局 統計データー 国民経済計算 県民経済計算
→市(区)町村所得…各都道府県庁統計データー
※各資料ともインターネットで検索できる。



8、マグネットとバリアー効果

→患者さんの大半は女性(主婦)であることを考えとどういう場所が有効的か?
■プラスに作用するマグネット機能…マグネット機能とは人が(飼い主)集まりやすい場所が近くにある。
例えば、スーパー・ホームセンター等の大型シッピングセンター、犬の散歩コース等

■マイナスに作用するバリアー機能…何かの事情で人の行き来が制限される。例えば、踏切・河川・高速道路・大型施設等(工場・学校等)
候補地に人が集まるマグネット機能がある所をチェックしてください。



9、開業候補地の周辺は自分で直接歩いて回る

候補地をコンサルタントに探してもらうことは悪くはないが、これから開業するのは自分自身であるのだから、必ず候補地の周辺を歩いてチェックする。そこで、散歩コース・家並み(車や自電車などで所得層や家族構成が分かる)・ライバル病院の雰囲気を確認する。



10、不動産の契約後

不動産を契約したら他の物件は見ない、終生に亘りその地で開業するとの決意で、開業後に患者さんの愚痴は言わない(患者さんと地域の事を愚痴る人で繁盛している人はいない) 。
上記に10のポイントを挙げましたが御自身で有効的な内容がありましたら参考にしてください。