第1章 開業準備 第2節 資金計画

1.開業に必要な資金額とその調達方法

動物病院を開業するに当たり、「土地建物を購入する場合」と「テナント」とでは資金的に大きく違うのですが、いくら希望のプランがあっても資金調達の目処が立たなければならないため、基本的なサンプルプランを例に確認していきます。

「土地建物を購入する場合」(自宅兼病院の場合)単位:万円
必要資金調達資金
土地代金
50坪×60=3,000
自己資金
800
建物
60坪×70=4,200
両親からの借り入れ又は贈与
2,200
外溝工事
100
金融機関※2
 
不動産諸経費
住宅ローン
4,000
土地仲介手数料
100
事業ローン
2,000
ローン手数料・保証料
100
不動産登記料・取得税等
50
医療器械※1(リースをしない)
900
小物関係
150
薬品
30
広告費
20
運転資金
350
合計
9,000
合計
9,000
(注)借入金とリースの比較

銀行ローンは返済期間が20年から35年と長いが、リースは5年から6年ものが多く開業当初は支出金額が多額で資金繰りが辛くなる。 ※1医療器械900万円の内容 レントゲン・手術台・無影搭・麻酔器・手術用モニター・生化学検査器・分包器・診察台2台・オートクレーブ・血液検査機・入院犬舎・輸液ポンプ・その他小物一式 上記予算ではエコー・血球計算機は含まれないが、中古機械が入ることで工夫の余地がある。

※2返済方法は、住宅ローンは利率2,5%・事業ローン3,1%・返済タイプ元利均等返済
「テナントの場合」(家賃は駐車場込みで月額30)単位:万円
必要資金調達資金
内装工事(設計料込)
30坪×40=1,200
看板
50
自己資金
800
契約関係
 前家賃
家賃の1ヶ月=30
両親からの借り入れ又は贈与
2,200
 保証金 家賃の5ヶ月分※1
30×5ヶ月=150
金融機関※2
 
 建設中の家賃※2
30×3ヶ月=90
住宅ローン
4,000
 仲介手数料
30
事業ローン
2,000
小物関係
150
薬品
30
広告費
20
運転資金
350
合計
3,000
合計
3,000

※1保証金について 保証金には契約更新時又は契約解除時に償却されるものがあるので注意する。 「償却とは」…保証金は契約解除時において物件を原状回復費用(内装工事の撤去)に充てるが、契約更新時又は契約解除時に償却という方法で価値が減少してしまう方法で追加分の支払いを請求されることがある。 ※2、建築中の家賃 建築中の家賃は契約時に交渉すると安くしてもらえるケースがある。

(注)テナントでの金融機関から借り入れをする場合の例
国民政策金融公庫(政府が100%出資している)

政府系金融機関で新規開業に対して融資を広く取り扱っている。

融資範囲:
総額の8割以内
適用要件:
設備資金・運転資金
返済期間:
設備資金原則15年以内 運転資金5年以内(特に必要な場合には7年以内)
融資条件:
金額が多額になると不動産担保を要求される(両親所有のもので可)
    :
第三者の保証人(保証人がない場合には金利が上がる)
元金据え置き:
新規開業の場合には6ヶ月(特に必要な場合は最長1年)以内は利息だけ支払い、その期間中は元金返済がなく少額(利息のみ)の支払いで済む、据え置き期間経過後に元金を含めた通常返済となる。
借入のタイプ:
固定金利・元金均等
各都道府県の保証協会

銀行等から融資を受けることになるが、各都道府県の保証協会(政府系の保証制度)が銀行等の融資金額に対し第三者保証をする制度である。この制度により銀行等は貸付金が未回収になることがないことから低利率で融資を行える。

融資範囲:
総額の8割以内
適用要件:
設備資金・運転資金
返済期間:
設備資金原則10年以内 運転資金7年以内
融資条件:
借入金額と返済期間に応じて、別途に信用保証料がかかる。更に第三者の保証人が不要のケースは①融資額1,000万円以内②融資額2,500万円で、かつ、自己資金1,000万円以上ある。上記以外は第三者の保証人が必要となります。
元金据え置き:
新規開業の場合には最長1年以内は利息だけ支払い、その期間中は元金返済がなく少額(利息のみ)の支払いで済む、据え置き期間経過後の元金を含めた通常返済となる。
借入のタイプ:
変動金利・固定金利・元金均等
(注

2.月々の支月払い金額の比較

「土地建物を購入する場合」
  1. 両親からの借り入れ又は贈与  贈与…1,200  借り入れ…1,000 返済機関10年 金利ゼロ
  2. 住宅ローン4,000 返済機関35年 金利2.5%  事業ローン2,000 返済機関20年 金利3.1%
「テナントの場合」

両親からの借り入れ又は贈与贈与…1,200借り入れ…1,000 返済期間10年 金利ゼロ

それぞれの月々の支払い比較(単位:円)
土地建物を購入する場合テナントの場合
両親への返済
83,333
両親への返済
8,3333
住宅ローン
142,998
テナントの家賃(駐車場含む)
300,000
事業ローン
111,923
自宅家賃(駐車場含む)
90,000
月額合計
338,254
月額合計
473,333
開業35年の場合における総支払額を比較
「土地建物を購入する場合」
両親への返済
83,333×12ヶ月×10年=10,000,000
住宅ローン
142,998×12ヶ月×35年=60,059,160
事業ローン
111,923×12ヶ月×20年=26,861,520
支払総額合計
96,920,680
※金利変更を考慮していない。
「テナントの場合」
両親への返済
83,333×12ヶ月×10年=10,000,000
テナントの家賃
300,000×12ヶ月×35年=126,000,000
自宅家賃
90,000×12ヶ月×35年=37,800,000
支払総額合計
173,800,000
※住宅の購入を考慮していない。

3.土地建物を購入する場合」と「テナントの場合」の長所短所

土地建物を購入する場合

(1)長所

  • 購入代金の総額が1億円を超えない場合には生涯支払い総額はテナントの場合よりも少ない。
  • 自宅と病院が同じ場所にある事は患者さんへ安心感を与える。
  • 夜に入院で心配な症例を確認するのに負担が少ない。

(2)短所

  • 多額の負債を負う事になる。
  • 購入するのに物件価格のおおよそ2割程度の頭金が必要となるので、多額の頭金が無いと購入できない。
  • 人通りが多い場所に購入物件が少ない。
テナントの場合

(1)長所

  • 多額の負債を負わない。
  • 頭金が少なくても(総額の2割以上)開業できる。
  • 人通りが多い場所に物件が出やすい。
  • 収入が増えてから土地建物を購入することもできる。この場合にはテナントでの支出総額は少ないと回収効率が良い。
  • 仕事と家庭のメリハリがつく。

(2)短所

  • テナントの方が生涯支払いは多くなる傾向がある。(都心部は別)
  • 自宅と病院が別になるので、患者さんが気にする場合がある。
  • 夜に入院で心配な症例を見るのに負担がかかる。

4.事業計画

事業計画書(収支計画書)を作成する目的

(1)金融機関から融資を受ける場合には必要書類となる。

(2)実際に開業した時に、どの位の収入が必要であり、かつ、支出はどの位で押さえるべきかの整理がつき、当初準備した運転資金の範囲内での経営がししやすくなる資料である。

そこで、実際にどのようなものが事業計画書であるのか次頁にサンプルを参照してください。

Ⅰ.事業計画書を作成してみましょう

動物病院を経営している先生方のほとんどが、売上から、薬品、給与、その他諸経費を支払った資金繰りに常に頭を痛めているようです。

これは、売上は季節により異なります(夏期には犬の予防注射関係で多く、冬期には減少する為)が、経費は売上に必ずしも比例しないことに原因があるようです。

そこで、1年間の病院の収入、支出の事業計画書を作成することで、毎年の設備投資額、納税及び個人の収入の予測が立ちます。

Ⅱ.事業計画書の作成手順

動物病院の事業に関する財務報告書には、損益計算書と貸借対照表がありますが、病院の収入と経費の計算書である損益計算書に、借入金の元金返済のような経費でない支出を考慮した形式で、翌年分の予算として事業計画書(納税予測表)を作成します。

A 売上

診療内容を売上項目別に見ると、前年比との予測、病院の季節的増減及び診療内容がわかり易くなります。

例:平均的なもの

(1)犬の外来は全体の50%~60%

フィラリアなど夏期に診療が多く、1番少ない2月に比べ1番多い5月には3倍位増加します。

(2)猫の外来は全体の20%~30%

1年を通して平均的に外来がありますが、犬より飼主が少なく、体重が軽いことから売上的には犬より減少します

(3)手術及び入院は全体の10%~30%

継続的に発生するものではなく、院長の診療方針又は設備状況により各 病院ごとに異なりますが、開業当初は少ない傾向があります。

(4)その他(ペットフード・ホテル・トリミング等)は全体の5%~10%

1年間の売上で、1番少ない冬期の2月に比べ1番多い夏期の5月とでは2倍位増加します。

B 仕入

薬品については、ペットフードを多く販売している病院は原価率が高くなりますが、通常では原価率12%~20%位が薬品原価と考えられます。

原価率が20%を超える病院では、診療報酬が安いか、又は手術が少ないと考えられます。

C 販売費及び一般管理費
(1)給与・賞与についての売上比率

代診を雇用しているか、AHTだけを雇用しているかによって売上比率は違いますが、売上に対しての人件費は15%前後と考えます。キャリアの長い代診については、売上比率の20%前後を人件費と考えると、他の経費との関係によりますが院長の報酬は33%~40%の間で売上に比例して得られます。

(2)その他諸経費の売上比率

病院をテナントで借りているか、自己所有しているかでこの売上比率が10%前後違ってきますが、人件費以外の販売費及び一般管理費は売上比率30%~40%が望ましいところです。

故に、自分の報酬をどの位にするか、又、設備投資金額をどの位にす  るかは、それ以外の経費がどの位必要かによります。

Ⅲ.変動費と固定費
1.変動費

動物病院における経費のうち、売上に比例して経費が多くなるものは以下のものです。

(1)仕入・薬品…売上に応じて比例

(2)給料・賞与…売上比率15%前後

(3)外注費…検査料等で売上の1%前後

(4)その他純粋に売上比例しないがほぼ比例するもの

①法定福利費、福利厚生費、旅費交通費

(人件費に付随するもの)

②消耗品費…設備費以外の小物

2.固定費

原則的に変動費以外のその他の経費は、売上が増加しても変わらないものが多いです。

例えばテナント家賃は、病院の売上が多くなっても大家が家賃を値上げするわけではなく、交際費などは売上が多いからといって外部の方と飲食に行く回数が多くなるわけでもありません。かえって診療が多くなると、外出しにくくなるのではないでしょうか。

以上のことから、ある程度以上の売上がなければ病院経営が出来ず、又、売上が上昇すれば院長の報酬比率も上昇して設備投資もしやすくなることから、事業計画書を作成して納税予測を立てながら、売上と経費のバランスを各事業年度ごとに試算してみて頂くと役立つと思います。図1(個人事業者)、図2(法人)を参考にして作成してみて下さい。

ポイント
  1. 収入根拠に説得性を持たせる、例えば、開業初年度に当初1日当たり、どの位の外来数と種別の診療目標を定める。特に繁盛する病院は開業当初は初犬の外来が多い、しかし、全般的にオペが少ない。
  2. 人件費は当初どの位収入があるか不透明であることから、なるべく身内でこなして、繁盛してから人を採用するようにする。
  3. 固定費を抑える。固定費とは、収入に関係なく一定額の支払いがあることから開業当初に支出負担が大きい。例えば、①借入金の返済、(返済期間は長めにする)②人件費、(繁盛したら人員を増加)③リース料、(なるべく住宅ローン・政府系金融機関の融資を使う)④家賃等がある。
  4. 変動費は怖くない。変動費とは、収入に比例してかかるもので、お金の入りと出のバランスがとれている。例えば、①薬品、②外注費(検査料金)、③消耗品(小物全般)等がある。
  5. 事業計画書は経営の見込みを現すのもで、企業会計の論理で作成したもので、出来れば職業会計人である。公認会計士・税理士が作成したものが好ましいと言える。

事業計画書サンプル

事業計画書のサンプル(PDFファイル)をダウンロードできます。

土地建物を購入した場合
・開業初年度
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開業3年目
テナントの場合
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