第2章 税務上の手続き 第1節 開業時の事業形態

個人事業と法人のどちらで始めた方が良いか


1、個人事業と法人の態様

動物病院の経営は収入を得る営業行為であり、その形態は個人事業、又は法人組織かのいずれかを選択することになる。そこで、下記に両者を比較します。


(1)個人事業とは
  1.  形態
    開業者が住所若しくは事業所地の所轄税務署長に事業開始に伴う各種届け出書を提出する。本人でもできる、この場合には費用はゼロで済む。
  2.  会計期間
    毎年度ごとに暦年(1月~12月)で行う。
  3.  事業者の収入
    事業者が毎月々に得る収入には、特に制限が無い。
  4. 社会保険
    社会保険とは「労働災害保険(労災)・雇用保険・健康保険・厚生年金」をいう。
      ⅰ事業主及び同居親族
     上記の社会保険には加入できない。
      代用として、健康保険は市区町村で国民健康保険に加入する。厚生年金は社会保険庁で国民年金を加入して、追加増額をする場合には国民年金基金を加入する。

     ⅱ従業員
     「労働災害保険・雇用保険」は従業員の人数に関係なく加入義務がある。  
     労働災害保険の掛け金は事業者の全額負担となる。
     雇用保険の掛け金は事業者と労働者の折半となる。
     「健康保険・厚生年金」は個人事業の場合には従業員5人以上の場合には加入義務がある。加入する場合には、掛け金は事業者と労働者の折半となる。(注)
      しかし、従業員5名以下の病院が多く、その場合には従業員が本人で、① 健康保険については住所地の市区町村、② 年金については社会保険庁で加入手続きをする。
  5.  税金(消費税を除く)
    開業時は設備投資が多く赤字となり、所得税・住民税はゼロとなる。更に個人事業の場合には、所得(利益)が低いと税率が低い(超過累進税率)ので開業時にむいている。


(2)法人とは
  1.  形態
    資本金を募り、法務局にて法人登記をする。その際に法人の定款(法人の概要・事業形態・その他の法人における決めごと等)を作成する。通常は専門的な作業になることから司法書士に依頼する。この場合には法務局への登録免許税・司法書士への手数料等で30万円以上の費用がかかる
  2. 会計期間
    法人が定款に定めた期間とする。但し、1年単位となる。
  3. 事業者の収入
    事業者が得る役員報酬(給与)を月々得る。事業者が経営者として法人の代表取締役(社長)となることが多く、月々の役員報酬は  原則一定額とされて、例え未払いでも給与課税される。
  4. 社会保険
    「労働災害保険・雇用保険」個人事業と同様となる。
      「健康保険・厚生年金」
      従業員の人数に関係なく事業主及びその家族も加入対象となる。
      掛け金の負担は個人事業と同様に全員が折半となる。
  5. 税金(消費税は除く)
    開業時は設備投資が多く法人は赤字となるが、個人は役員報酬が計上されることから所得税・住民税は課税される。又、法人で利益が出ると定率でおおよそ26%(課税所得800万円以下で法人税・都道布県民・市民税の合計)が課税される。

2、新規開業にはいずれの方法が有利か

個人事業 法人組織
規模 小規模にむいている 大規模にむいている
社会保険 開業当初は健康保険・厚生年金の加入義務なし※1 規模に関係なく健康保険・厚生年金の加入義務が生じる
税金(利益) 開業当初はゼロか定額 開業当初はから所得税が発生する

※1開業当初には従業員は5名以下と思われる。
  個人事業の場合には開業当初に税金(所得税・住民税)の支払が無く、健康保険・厚生年金の加入義務もないことから、開業当初は個人事業で開業して、病院の経営規模が拡大したところで個人事業から法人化を検討することをお勧めする。
健康保険・厚生年金を加入した場合の具体例
Ex 法人で院長役員報酬月額40万円・配偶者給与月額20万円・従業員給与月額16万円の場合における掛け金(全員40歳未満で報酬・給与は交通費込み)単位:円

健康保険 厚生年金 合計
全額 本人 全額 本人 全額 本人
従業員 13,120 6,560 24,560 12,280 37,680 18,840
配偶者 16,400 8,200 30,700 15,350 47,100 23,550
院長 33,620 16,810 62,935 31,467 96,555 48,277
合計 63,140 31,570 118,195 59,097 181,335 90,667
掛け金の本人負担は50%              掛け金は平成21年8月現在 
  この場合の毎月の掛け金納付額は181,335円と多額である。これから従業員の本人負担分の18,840円を差し引いた。夫婦と従業員の事業所負担で162,495円となるがそれでもかなりの負担となり、動物病院経営上において健康保険・厚生年金を加入していない事業所かほとんどである。

3、開業時における個人事業の税務関係提出届出書リスト

税務署 1開業届 開業から1ヶ月以内
2青色申告承認申請書 開業から2ヶ月以内
3青色専従者給与に関する届出書 同上
4減価償却方法の提出 開業の翌年の3月15日まで
5棚卸資産の評価方法の届出書 同上
6有価証券の評価方法の届出書 同上
7給与支払事務所の開設の届出書 開業から1ヶ月以内
8源泉所得税の納期の特例の承認申請書 いつでも可能だが上記7と同時がよい
9小規模事業者で現金主義を選択する場合 開業から2ヶ月以内
10諸費税課税事業者選択届出者 開業年の末日
都道府県民税 開業届開業から2ヶ月以内
(注)諸費税の取扱は第3節で説明する。